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【トルコ 寒中爆走編】
自転車の件を訴えにイラン警察に行ったが、まあ警察が見つけてくれるわけ
でもなく、お巡りさんに連れられて新しい自転車を買いに行った。
しょんぼりしている俺を可哀想に思ったか、自転車と装備品300ドルのところ
100ドルをお巡りさんと自転車屋さんがカンパしてくれた。
優しいじゃないかイラン人。
だから泥棒のことは呪っているがイランを恨む気持ちはあまりないのだ。
アララト山
さてタブリーズあたりから標高が高くなって一気に気温が下がる。
トルコは寒い寒いと聞いてはいたが、ほんとに寒かった。
入国初日からテントが結露で凍る。温度計で確認できた最低気温は-10℃である。
のんきに自転車漕いでられる気温じゃねえ。
おまけにトルコは冬が雨季だから雨は降るわ雪は降るわ吹雪に見舞われるわで
散々だった。イランで自転車と共に盗まれた荷物の中にフライ
(テントの防水シート)、レインウェアパンツ、靴カバー、シュラフカバー
などが入っていたので、まさに地獄だった。フライがないので夜雨が降る
可能性がありそうなときはトンネルや橋の下などを見つけてテントを張らなくては
いけない。雨が降ると下半身はずぶ濡れになり、疲労凍死の危険もある。
雨具だけは調達しようとタブリーズで奔走したが結局見つからなかったのだ。
雨の降りそうなある日、路上で風変わりな三人組と出逢った。
すれ違う瞬間「あれッ?」と聞こえて、(「あれッ?」て日本語だよな?)と
思い引き返すと日本人のマラソンランナーだった。
パリから日本へマラソンで向かっている途中だという。
中古車のガリバーの会長さんら三人ということだったが、トップがそんなことを
するなんて、日本の企業もまだまだ捨てたものじゃあない。
「エルズルムのホテルに泊まってるんだけど、招待するよ」と会長さんが仰るが、
距離的にかなり厳しい(あと一時間もすれば暗くなる時間で、まだエルズルム
まで40kmくらいあった)のでちょっと遠慮しようかな・・・と思っていたら、
誰かが「遠いしホテルはかなり高台にあるし無理無理」と言う声が聞こえた。
無理・・・?無理だって?
中国から一万kmを走ってきた俺に、たかが40kmが無理?3000m以上の峠を
越えてきた俺に、街からたかが300mの高台にあるホテルにたどり着くのが無理だって?
フフン、ずいぶん安く見られたもんじゃあないか・・・!俺は発奮した。
予想通り途中で日は暮れ、闇の中を走ること二時間、雪は降り始め人家は
途切れ、こんな山の上にホテルを作った人間に憎しみを感じ、野宿を選ばなかった
自分を責め始めた頃ようやくホテルに辿り着いた。
びしょ濡れでガタガタ震えながら夜中に転がり込んできた惨めな日本人旅行者に
ホテルマンも驚いていた。ちなみにこの旅で泊まった宿の中で一番高級だった。
またある日は2000mくらいの峠を越えている途中で日が暮れ、雨露をしのげ
そうなところも見つからず寒さに震えていると、ちょうど峠の頂上にある軍の
駐屯地(ジャンダルマという)から兵隊さんがやってきてついて来いという。
どこか駐屯地のガレージの軒先でも貸してもらえれば・・・と思っていると、
軍への来客者用の部屋を一室あてがってくれた。
食事も三度(夕食と夜食と朝食)ご馳走になり、翌朝出発の時には牛乳やら
チーズやらお菓子やら山のようにお土産を持たせてくれた。
トルコ軍とだけは絶対戦争をしたくない。
イスタンブールに着いた11月12日は珍しくいい天気だった。
ボスポラス海峡まで辿り着いた時には既に暗くなっていて、アジア側から見える
色とりどりの灯りに胸が熱くなったのを憶えている。
走行距離およそ13,000km、通過した国8カ国(日本含む)、立ち寄った
世界遺産16箇所、かかった日数は216日。
福岡を出発した四月から七ヶ月かかってイスタンブールに到着。
いい人生勉強になったと思うが、別にすごいことを成し遂げたというほどのもの
ではない。こんなもん金と時間と体力さえあれば誰でもできると思って始めたし、
実際そうだった。それよりもこの経験を今後の人生にいかに役立てるか、
そっちのほうに今は興味がある。
ロマン・ロランは「ジャン・クリストフ」の中で、「人間は20代を過ぎたら、
それまでの人生をコピーするような生き方をするだけだ」というようなことを
言っているが、今後もこういう経験をコピーするような生き方ができるのなら、
俺の人生、これから先もなかなか面白そうである。
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Yさん、なかなか壮絶な(?)シルクロード自転車の旅を送っていただきまして
どうもありがとうございました!!
ご自分の足で自転車で旅したYさんの人生観、人間観はとても柔軟になったかも
しれませんね。
う~ん、これからもYさんの人生、確かに面白そうですよね。
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