元エミレーツ航空客室乗務員が語る現役時代の生活【前編】


エミレーツ航空で約10年の長期に渡り客室乗務員として活躍されていた坂本先生に、エミレーツ航空の社内の雰囲気や働いてみて感じたことなどを詳しくお伺いしました。大人気の中東系航空会社の実際の生活とは?受験予定の方はぜひチェックしてみてください。

意外に厳しい?エミレーツ航空の職務規定

―坂本先生は約10年間エミレーツ航空で日本人クルーとして乗務されていたのですね!エミレーツ航空社風はいかがでしたか?

外資系エアラインは、フランクで自由な社風を想像される方も多いかもしれませんが、エミレーツ航空は意外に、社内規定が細かく厳しい会社だと思います。

例えばフライト前の身だしなみチェックは、その場で1周まわって、ネイルやヘアスタイル、制服の着こなしなど、きちんと整えられているかを入念に確認されます。

またカバンの中身もチェックがあり、もし忘れ物があれば、乗務させてもらえません。

エミレーツ航空で働く客室乗務員は130か国以上と非常に多国籍です。それぞれの全く異なる文化、習慣を持つ乗務員がチームを組みフライトをしています。

そのため、規定をきちんと厳しくしておかないと、どうしてもそれぞれの文化を持ち込み、規律が乱れてしまうことがあるので、他の外資系よりも普段からのルールが厳しいのではないかと思います。

―そうなのですね。エミレーツのメイクは赤い口紅が特徴的だと思うのですが、メイクや髪型に関する規定は細かくあるのでしょうか。

はい、いくつか規定があります。例えば、ネイルは赤単色か、透明なベースに白のフレンチネイルのどちらかと決められています。

また口紅の色も、赤と決まっています。

ブランドや色番号の指定まではありませんが、どんな赤でも良いわけではなく、基本的にはエミレーツ航空のブランドカラーのようにパッと華やかな赤の口紅が好まれ、グロスや暗めの赤の口紅をつけていると、注意されることがありました(笑)

―ヘアスタイルはどうでしたか?

ヘアスタイルの規定も細かくあり、基本は夜会巻かシニヨンが多かったです。

また私たちの制服には制帽がありますので、崩れにくいヘアスタイルということで、頭頂部から編み込みをして毛先を巻き込むスタイルも人気がありました。

―あと、エミレーツ航空といえば、あの制服も印象的ですが、制服については何かこだわりがあるのでしょうか。

薄いベージュを基調に赤のアクセントカラーの特徴的なデザインの制服ですが、そのカラーにはそれぞれ意味があると聞きました。ベージュ色の制服は砂漠を、赤い帽子は太陽を、そして顔の周りを覆っている白いベールのようなスカーフは風をイメージしているそうです。

 

社内の雰囲気は非常にフラット!世界中から集まる客室乗務員

―なるほど。制服にもベースの地域を表すような意味が込められているのですね。ここからは実際の職場について聞きたいのですが、客室乗務員同士の雰囲気はいかがですか。

私は、エミレーツ航空の前は大韓航空に勤めていましたが、大韓航空の場合は、客室乗務員の90%は韓国人です。そのため、私たち外国人クルーは、本国クルーの中に入り仕事をしているという感覚が少なからずありました。

それに対して、エミレーツ航空の場合は、乗務する客室乗務員の国籍は多種多様で、ベースであるドバイ出身者は10年近く働いた私でも10人にも会ったことがないほど少ないです。

比較的、多いのはオーストラリアやインド、フィリピン、ヨーロッパ系でしょうか。エミレーツ航空の客室乗務員は全体で約2万人とかなり多いですが、それぞれバックグラウンドが違うため、客室乗務員同士がとてもフラットで平等に感じました。国籍による少数派意識を感じることがないのはいいと思います。

男性クルーが多いのも特徴かもしれません。これも1便に必ず2名は必要という規定があります。そして、アラビア語スピーカーもすべての便に最低1名は必要でした。路線によって、特定の国籍のクルーや言語スピーカーが何名乗務しなければならない、という規定が細かくあるので、毎回そのあたりのバランスがとられながら、乗務するメンバーが決められます。

ちなみに乗務するメンバーは毎回のフライトで変わるので、どのフライトも「初めまして」から始まり、同じ人と何度も飛ぶことのほうが少ないです。

日本便は特別…!日本便のみの規定とは?

―客室乗務員数が全体で2万とはすごい数ですね!ちなみに日本人客室乗務員は何名ぐらいいますか。

日本人客室乗務員は私が乗務していた頃で350名ほどいたと思います。先ほど、同じ人と仕事をすることはほぼないと言いましたが、日本人客室乗務員に関してはそう言い切れません。

なぜなら日本線には「国籍が日本人である人が必ず6名乗務しなければならない」という特別な規定があるからです。

他の路線、例えば、パリ線であれば、フランス人に限らずフランス語「スピーカー」が1人いればいいのですが、日本線は日本「国籍」を持つ日本人乗務員が6名必要です。

これは世界中、150路線飛ばしているエミレーツ航空の中でも唯一、日本線のみの対応になっています。

理由は、「日本のサービス」というのが特別なものとして世界から認められているからです。普段から丁寧なサービスに慣れている日本のお客様は、機内でも、特に丁寧なサービスを期待してご搭乗なさっています。そうした文化的背景を汲んで、最高のサービスを提供するためには日本のおもてなし感覚を共有できるよう“日本人”客室乗務員が乗務することになっています。

また日本便のビジネスクラスやファーストクラスでは懐石スタイルの日本食を提供するのですが、その配膳マナーも日本人が馴染み深いので、日本人客室乗務員が重用されていますね。

世界中に行けるチャンスがある勤務路線

―日本人客室乗務員は特別な役割を担っているのですね。そういった意味では日本線もよく乗務はされたと思うのですが、日本線以外の路線はどんな路線を飛んでいましたか。

エミレーツ航空が就航している都市であれば、どの都市でも乗務する可能性があるので、おそらく100都市以上は行っていると思います。オーストラリアだけでも6,7都市あるなど1つの国の就航都市が多いです。時には名前を聞いただけではどこの国の都市なのかわからないようなところもありますね。

―毎回乗務路線は変わりますか?路線の希望は出せるのでしょうか?

毎回路線が変わります。かなりの確率で希望が通る月とほとんど通らない月というのが順番にまわってきますが、基本的に路線の希望は毎月出すことができます。

また、客室乗務員同士で、お互いのフライトを交換することができます。社内のサイトで、他の乗務員のスケジュールを見ることができるので、自分が欲しいフライトを持っている人を探して、直接交渉し、よく交換してもらっていました。

エミレーツ航空は、本当に様々な国籍の人が働いているので、それぞれが客室乗務員になった理由は異なります。

例えば、日本人は、外資の華やかで自由な雰囲気の中、客室乗務員として活躍してみたい、など純粋に憧れを抱いて目指す人も多いと思います。大韓航空を経た私にとっては、より難しい環境で挑戦してみたい、というのが志望理由でした。「多国籍と働く」という点において、さらに語学力や順応性が求められると思ったからです。 一方、ネイティブスピーカーで語学力の支障がない欧米系のクルーの中には1~2年と期間を決め、人生の貴重な経験のひとつとして、働きながら無料の世界旅行を楽しみたいという目的の人もいました。

また国籍によっては、家族を母国において出稼ぎにきている方もいらっしゃいます。

つまり、とにかく限られた期間でひとつでも多くの色々な就航都市へ行きたい人、少しでも収入の増える便(行先によって滞在費などが異なります)に乗務したい人、できるだけ自国への便に乗務し家族に頻繁に会いたい人、などそれぞれの目的のために希望する便が違うので、フライトの交換はしやすかったです。

世界数十か国の人と一緒に働け、世界各国の国に訪れることが出来るエミレーツ航空の客室乗務員。非常に魅力的な会社で人気の理由がわかります。坂本先生へのインタビューは【後編】へ続きます。